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日々学んだこと、主に科学一般やプログラミング、ライフハックについて発信していきます。

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WNTシグナル経路

1. WNTシグナル経路の概要

  • WNTシグナル経路:分泌タンパク質であるWNTリガンドが細胞膜上のFizzled、LRP受容体に結合することで活性化される
  • WNTシグナル経路には、複数の細胞内伝達経路が関わっている
    • β-catenin経路:様々な臓器で、幹細胞維持や細胞増殖・分化の制御に関わる
      • 最も解析が進んでいる
      • 多くの腫瘍で、WNT/β-catenin経路に関する遺伝子変異が報告されている
      • WNT/β-catenin経路の活性化は、免疫染色によって検出可能(β-cateninが細胞内に集積しているのが観察できる)
        →腫瘍の病理診断でも用いられている

2. WNT/β-cateninシグナル伝達のメカニズム

  • WNTシグナル経路は、分泌タンパク質であるWNTリガンドが細胞膜上のFizzled、LRP受容体に結合することで活性化される
    • ヒトでは19種類のWNTリガンド遺伝子が存在する
    • 受容体はFZD(Frizzled)遺伝子が10種類、LRP遺伝子が2種類存在する
  • WNTリガンドと受容体の発現は組織・細胞ごとに異なる
    • リガンドと受容体の組み合わせによって下流シグナルの活性化に、どう影響するかはよくわかっていない
  • WNTによって活性化されるシグナル経路は以下のものがある
  1. β-catenin経路:β-cateninを介して、転写因子TCF・LEF1の活性化と標的遺伝子の誘導に至る
    • β-catenin経路は、多くの臓器で幹細胞維持や細胞増殖・分化の制御に関わっている
    • β-catenin経路が異常に活性化すると、腫瘍の発生に寄与する
  1. planar cell polarity経路:細胞骨格や細胞運動を通じて、細胞の平面極性を制御する
  2. Ca2+経路:細胞内のCa2+動員を介して、CAMキナーゼやプロテインキナーゼCを活性化する

Fig. 1: WNT/β-catenin経路, 参考文献1より引用 (a)WNTシグナル経路が活性化していない状態では、細胞質内のβ-cateninは速やかに分解される。(b)WNTが受容体に結合すると、β-cateninの分解が阻害され、細胞質内へ蓄積する。細胞内に蓄積したβ-cateninは核移行し、転写因子(TCF・LEF1)を活性化する。(c)CTNNB1(β-catenin)変異を有する細胞では、β-cateninがリン酸化を受けないため分解されず、恒常的にTCF・LEF1の転写が活性化される。
  • WNT/β-catenin経路は以下のように制御されている
  1. β-cateninはWNTシグナル伝達に重要な役割を果たすタンパク質である
  2. WNT/β-catenin経路が活性化していない状態では、APCを含む複合体によってリン酸化、ユビキチン化を受け、プロテアソームによって分解される。
    • APCを含む複合体はdegradation complexと呼ばれる
  1. WNTが受容体に結合すると、degradation complexによるβ-cateninのリン酸化が阻害される
  2. β-cateninの分解が阻害されると、β-cateninは細胞質内に蓄積される

参考文献

[1]西原広史 [ほか] 編. (2022). がんゲノム医療時代の分子腫瘍学. 病理と臨床, 40(臨時増刊号). 文光堂.

 

 

糖尿病の概要

糖尿病とはインスリンの作用不足により、高血糖が慢性的に続く疾患である。

本項では糖尿病の分類や診断~治療までの流れについて記載する。

1. 糖尿病とは

糖尿病とは、血液中のグルコース(血糖)のレベルが正常よりも高い状態を指す一連の代謝性疾患である。この状態は、体がインスリンを十分に生産しないか、または体がインスリンを適切に使用できないために発生する。インスリンは、血液中のグルコースを体の細胞に運び、エネルギーとして使用するためのホルモンである。

糖尿病には主に二つのタイプがある:1型糖尿病2型糖尿病である。1型糖尿病は、体がインスリンを全く作らない状態を指す。これは通常、免疫系が誤ってインスリンを作るための細胞を攻撃する自己免疫疾患として発症する。一方、2型糖尿病は、体がインスリンを適切に使用できない、または十分なインスリンを生産できない状態を指す。これは通常、肥満や運動不足などのライフスタイルの要因によって引き起こされる。

糖尿病は、未治療のままであると、視力低下、腎臓の問題、心臓病、神経損傷など、さまざまな健康問題を引き起こす可能性がある。しかし、適切な治療と管理により、糖尿病患者は健康的で活動的な生活を送ることができる。

2. 糖尿病の分類

糖尿病は以下のように分類される。

3. 診察の流れ

3.1. 糖尿病に関するガイドライン

糖尿病に関する診療については、以下のようなガイドラインが存在している

3.2. 問診

糖尿病患者は、自覚症状なく、健診をきっかけに受診することが多い。糖尿病患者に関する問診では以下の事項を確認する。

  • 高血糖に伴う症状の有無
  • 健康診断の受診歴
  • 体重の増加・減少の有無とその時期
  • 既往歴
  • 病型の分類
  • インスリン作用不全の程度
  • 発症時期
  • 罹病期間

患者が女性の場合、以下の事項についても確認する。

  • 妊娠・出産歴
  • 巨大児分娩歴

糖尿病の状況について確認するため、血液検査等も行う。

4. 成因・病態

糖尿病で特に多い1型糖尿病および2型糖尿病について、成因・病態を以下に記述する。

4.1. 1型糖尿病の成因・病態

  • 自己免疫によるβ細胞の破壊
    • 抗GAD抗体やICA(抗膵島細胞抗体)など、膵島細胞に関連した自己抗体が陽性となる場合が多い
  • ほかの自己免疫疾患との関与がない
  • 家系内の糖尿病は2型の場合より少ない
  • 小児~思春期に多い

4.2. 2型糖尿病の成因・病態

  •  インスリン分泌の低下とインスリン感受性(インスリン抵抗性)の双方が原因
  • 脂肪細胞から分泌されるアディポネクチン・TNF-αなどのアディポサイトカインのバランスが崩れ、院る新感受性が低下すると考えられている
  • 肥満状態では脂肪細胞が肥大化しており、アディポネクチン低下・TNF-α上昇の状態となる
  • 遺伝因子および環境因子(過食、運動不足など)が発症に影響する
  • 40歳以上に多い
  • 若年発症も増加している

5. 症状

  • 比較的急速に進行した場合:全身倦怠感、口渇
  • インスリンの作用不足:体重減少
  • 重症例:意識障害高血糖昏睡、ケトアシドーシス
  • 糖尿病患者は顆粒球の貪食能が低下しているため、感染症に罹患しやすい
  • 合併症による症状
    • 細小血管障害
      • 糖尿病性網膜症
        • 網膜の血管壁の細胞の変性
        • 基底膜の肥厚による血流障害
        • 初期病変:出血、白斑、網膜浮腫
        • 網膜前や焼死体に新生血管発生
        • 硝子体出血、網膜剥離
      • 糖尿病性腎症
      • 糖尿病性神経障害
        • 末梢の毛細血管の血流が障害
        • 末梢神経線維が障害
        • ソルビトールが蓄積
        • 直接的に神経線維を障害
    • 大血管障害
    • 虚血性心疾患
    • 脳血管障害(脳梗塞
    • 下肢閉塞性動脈硬化
      • 足潰瘍や壊疽に関連することが多い
  • その他

6. 検査・診断

診断基準の主な要素は血糖値である。

糖尿病の診断基準

血糖値について、以下のような指標が用いられる。

血糖値に関する検査結果から、糖尿病患者、糖尿病の疑いがある患者に分けられ、それぞれ以下のように分類される。

糖尿病の検査結果による分類

また、糖尿病は合併症に対する治療がQOL向上に非常に重要であるため、合併症に関する検査も行われる。


7. 治療

7.1. 糖尿病治療の概要と流れ

糖尿病の治療は大きく薬物療法と非薬物療法に分けられる。

糖尿病患者に対する治療の流れについて、下図に示す。

糖尿病の治療アルゴリズム

 

7.2. 糖尿病治療薬

糖尿病治療薬は下図のようなものが用いられている。

糖尿病治療薬に関するエビデンス

糖尿病治療薬は、食事・運動療法を2~3ヶ月行っても十分な血糖コントロールが得られない患者に対して行われる。

以下に、各糖尿病治療薬の概要と使い分けについて記述する。

  • ビグアナイド薬
    • メトホルミン塩酸塩は血糖低下薬であるが、その機序として、AMPキナーゼの活性化を介してグルコーストランスポーター4を細胞膜へ移動させる作用や、肝臓や骨格筋細胞で脂肪酸の燃焼を促進して細胞内脂肪酸濃度を下げる作用など、インスリン受容体以降のシグナル伝達の促進が考えられている

メトホルミンの作用機序

OCT1: 有機陽イオン輸送体 1, FBP1: フルクトース-1,6-ビスホスファターゼ, IRS1: インスリン受容体基質 1, GLUT1: グルコース輸送体タンパク質 1, mGPD: ミトコンドリアのグリセロリン酸デヒドロゲナーゼ, OXPHOS: 酸化的リン酸化, ATP:アデノシン三リン酸, AMP: アデノシン一リン酸, cAMP: 環状アデノシン一リン酸, IR: インスリン受容体, PKA:プロテインキナーゼA, ACC: アセチル コエンザイム A カルボキシラーゼ, mTOR: ラパマイシンの哺乳類標的, AMPK: アデノシン一リン酸活性化プロテインキナーゼ, CaMKKβ: カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼβ, LKB1: 肝臓キナーゼ B1, AXIN: 軸阻害剤; SIRT1:サーチュイン1; v-ATPase: 液胞 ATP 加水分解酵素.

  • チアゾリジン薬
    • 脂肪細胞に存在するペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPAR-γ)を活性化させる
    • 上記により、脂肪細胞からのアディポネクチンの産生促進・TNF-αの産生抑制を介してインスリン抵抗性を改善させる
  • スルホニル尿素
    • スルホニル尿素薬は、膵臓のβ細胞に作用し、インスリン分泌を促進する
      • 具体的には、β細胞のSU受容体に結合し、インスリン分泌を促す
      • また、膵臓β細胞のK⁺ATPチャネルに作用し、K⁺の細胞外への流出を阻害することで、細胞膜が脱分極し、電位依存性Ca²⁺チャネルが開口しCa²⁺イオンが細胞内に流入することでインスリンを分泌する
  • グリニド薬
    • グリニド薬は、スルホニル尿素薬と同様に膵臓のβ細胞に作用し、インスリン分泌を促進する
    • ただし、グリニド薬の作用はスルホニル尿素薬よりも速やかである
  • DPP-4阻害薬 
    • DPP-4阻害薬は、血中のGLP-1(インクレチン)濃度を上昇させ、インスリン分泌を促進させる
      • 具体的には、DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)という酵素を阻害し、GLP-1の分解を抑制する
    • 上記の作用により、血糖が高い時にインスリン分泌が促進され、血糖値が下がる

DPP-4阻害薬の作用機序
  • α-グルコシダーゼ阻害薬
    • α-グルコシダーゼ阻害薬は、小腸内でα-グルコシダーゼの活性を阻害し、二糖類の分解を阻害して糖質の吸収を遅延させる
    • 上記の作用により、食後の高血糖・高インスリン血症を抑える
  • SGLT2阻害薬
    • SGLT2阻害薬は、腎臓の近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を阻害する
      • 具体的には、SGLT2(ブドウ糖の再吸収を担う輸送体)の働きを阻害することにより、ブドウ糖を尿と一緒に排出する
  • インスリン製剤
    • 直接血中へインスリンを投与することで、血糖値を下げる

老化研究

老化は徐々に進行する不可逆的な病態生理学的過程である。

加齢により、しわが増え、体が弱り、病気になりやすくなる。

近年、老化のメカニズムを解き明かすため、様々な研究が行われており、一部が明らかになりつつある。

本項では、老化研究の歴史とその研究成果について紹介する。

 

1. 老化研究の歴史

老化研究における重要な発見を下図に示す。

老化研究の歴史

1.1. 寿命に影響を与える因子の発見

老化研究の始まりは20世紀前半である。

まず、1925年に光強度がショウジョウバエの成長速度と寿命に影響を与えることが明らかにされた。その後、1930年代にカロリー制限によってマウスやラットなどの哺乳類でも寿命が延びることが発見された。その後も様々な因子が検討され、マウスでは若い個体の糞便、血液などを移植することで寿命に影響することが発見されている。

1.2. 老化の原因に関する提唱

1956年、デナム・ハーマンによってフリーラジカル理論が提唱された。

老化に伴う変化は、細胞の代謝によって発生するフリーラジカルの有害な作用によって媒介されると主張した。その後、様々な研究により生物の寿命は遺伝子によって規定されているとする「プログラム説」や免疫細胞に加齢に伴う異常が蓄積することで老化が進むとする「免疫異常説」などの説が提唱されている。

現在では老化の特徴にそれぞれの説が提唱しているフリーラジカルや免疫異常などの老化の原因が含まれているが、老化は複雑に制御された生命活動の結果として生じるものであり、複数の原因によって進行していくものであるとされている。

1.3. 細胞の分裂限界の発見

ヘイフリック限界

1965年、ヒトの培養線維芽細胞を継代培養すると、それ以上分裂を行わない分裂限界があることが発見された。

上記の発見は発見者にちなんで「ヘイフリックの分裂限界」と呼ばれ、生物の寿命が遺伝子によって規定されているとするプログラム説が提唱されるようになった。

寿命に影響する遺伝子の探索により、細胞の分裂回数を規定している「テロメアtelomere)」の存在などが明らかになった。

 

2. 老化の特徴

老化の特徴は以下の3つの判断基準に当てはまる現象である

  1. 加齢によって増えていく現象である(増えなければ普遍的な現象であると考えられ、老化を起こすことはできないはず)
  2. その特徴が出るスピードが増せば老化が加速する
  3. そのスピードが緩めば老化が遅れる(老化に付随する減少と、実際に老化を促進させているものを区別するため)

老化に関連する分子メカニズム

上記のような判断基準に当てはまる特徴として以下のようなものは明らかになっている

  1. DNAの損傷
  2. テロメアの短縮
  3. タンパク質の問題
    1. オートファジー
    2. アミロイド
    3. 付加体
  4. エピジェネティクスの変化
  5. 老化細胞の蓄積
  6. ミトコンドリアの機能不全
  7. シグナル伝達の失敗
  8. マイクロバイオームの変化
  9. 細胞の消耗
  10. 免疫系の故障

2.1. DNAの損傷

DNA損傷と修復の種類
  • DNAは生物の遺伝情報を保存している遺伝子を構成する物質である
  • ヒトの遺伝子は約30億塩基対のDNAにより構成されている
  • ヒトは約37兆個の細胞により構成されているが、各細胞の核に約30億塩基対のDNAが46本の染色体に分かれて保存されており、細胞分裂の際には完全なコピーを作って娘細胞に分配する
  • 化学物質や放射線、紫外線、細胞分裂時のDNA複製エラーにより、遺伝子変異が生じる

2.2. テロメアの短縮

テロメアの短縮
  • テロメア(telemere)は染色体(chromosome)の末端にある、特徴的な繰り返し配列をもつDNA(デオキシリボ核酸)と、様々なタンパク質からなる構造である。
  • テロメア細胞分裂によってDNA複製が行われる度に少しずつ短くなっていく(テロメアの短縮)
  • テロメアが一定の長さ未満になると、細胞はアポトーシス(apotosis)するか、それ以上分裂しない細胞老化という状態になる
  • テロメアの短縮は不可逆な減少ではなく、テロメラーゼ(telomerase)と呼ばれる酵素によって再び伸長することができる
  • テロメラーゼ(telomerase)は生殖細胞や幹細胞、がん細胞で活性が認められる
  • 培養している細胞にテロメラーゼを添加すると、多くがん細胞ができてくることがわかっているため、単純に薬剤としての使用は難しい

2.3. タンパク質の問題

タンパク質の調節不全
  • 人体の約20%はタンパク質でできている
  • タンパク質は細胞自体の構成要素であると同時に、様々な化学反応を触媒する酵素を構成している
  • タンパク質の多くは常に生産され続け、古くなったものは壊される(オートファジー)ことによって働きを保っている
  • 加齢に伴い、オートファジーが追い付かなくなると、誤った構造のタンパク質が蓄積し、老化に伴う不調が起こる

2.4. エピジェネティクスの変化

エピジェネティクス
  • エピジェネティクスとは、DNA配列の変化では説明できない遺伝形質のことを指している
  • DNA(デオキシリボ核酸)は化学的修飾によって遺伝子発現を調節されており、
  • DNAメチル化やヒストン修飾などが例として挙げられる
  • 特に、DNAメチル化は老化とともに減少していくことがわかっている
  • 加齢に伴うDNAメチル化の変化は、心血管病変、がん、アルツハイマー病など様々な加齢性疾患とも関連していることが示唆されている

2.5. 老化細胞の蓄積

老化細胞による影響
  • 体細胞は一定の回数の分裂を終えると、分裂限界を迎えて細胞分裂を不可逆的に停止する
    • この現象は細胞老化と呼ばれ、ヘイフリックによって発見された
  • 細胞老化は正常細胞が必要以上に細胞分裂を繰り返してがん細胞に形質転換することを防ぐ、がん抑制機構として働いていると考えられている
  • 細胞老化を起こした細胞(老化細胞)は通常、免疫細胞によって除去される
  • 老化細胞は免疫細胞を誘導するために炎症性サイトカインやケモカイン、細胞外マトリクス分解酵素など炎症や発がん促進作用のある種々の物質を分泌している
    • これらの物質はSenescence-associated secretory phenotype(SASP)と呼ばれている
  • 加齢に伴い老化細胞の除去が追い付かなくなり、老化細胞が蓄積していくことで、SASPによって慢性炎症が発生し、発がん促進など生体によって好ましくない状況が発生していると考えられている

2.6. ミトコンドリアの機能不全

ミトコンドリアの老化による変化
  • ミトコンドリア(mitochondrion)は細胞小器官の1つで生物のエネルギー単位であるアデノシン三リン酸を合成している
  • ミトコンドリアは各とは別に独自のDNA(mtDNA)を持っており、独立して増殖する
  • ミトコンドリアは加齢に伴い以下のような変化が起こる

2.7. シグナル伝達の失敗

老化に関連するシグナル伝達
  • 細胞は周囲の環境に適応するため、周囲の生化学的刺激や物理的刺激によって遺伝子発現を調節している
  • 刺激の情報伝達システムは細胞のシグナル伝達と呼ばれ、刺激を媒介する様々なシグナル分子がになっている
  • 加齢に伴いシグナル伝達も変化していくことがわかっている

2.8. マイクロバイオームの変化

加齢に伴う腸内細菌叢の変化
  • ヒトは膨大な数の微生物と共生している
  • 細菌のかたまりはマイクロバイオームと呼ばれ、腸や皮膚、口腔内に生息している
  • マイクロバイオームは主に腸内に生息しており、腸内細菌叢と呼ばれる
  • 加齢や慢性疾患により、腸内細菌叢は種類が減り、慢性炎症を起こすようになる

2.9. 細胞の消耗

幹細胞の老化
  •  DNAの損傷やエピジェネティクスの変化、オートファジーが追い付かなくなることなどにより、幹細胞の働きに影響が出る
    • 造血幹細胞(hematopoietic stem cell: HSC)は血球に分化する幹細胞である
    • 加齢に伴って、HSCは分化するよりも分裂することが多くなり、十分な数の血球が作られなくなる

2.10. 免疫系の故障

免疫系の老化
  •  加齢に伴い、免疫系(immune system)の機能が低下する 
  • 免疫系は外敵を排除することで有名だが、内部で生まれてくる老化細胞やがん細胞の排除をする役割も持っている
  • 加齢に伴い、自然免疫と適応免疫の両方が、感染に対する反応の調節不全を示し、その結果、抗病原性反応が最適化されず、炎症が増大する
  • I型IFN分泌の減少や、老化を含む自然免疫細胞の機能的欠陥は、病原体のクリアランスを非効率的にする
  • 樹状細胞(DC)の輸送やT細胞のプライミングにおける欠陥も、抗体産生や細胞性T細胞応答を含む適応免疫応答の障害を引き起こす
    • 炎症性の老化免疫細胞の浸潤が増加し、組織障害を引き起こす

 

参考文献

  1. AGELESS(エイジレス):「老いない」科学の最前線
  2. https://www.nature.com/articles/s41392-022-01251-0

  3. https://www.mdpi.com/1422-0067/24/5/4741

  4. https://blog.cellsignal.jp/cell-process-what-role-do-the-telomeres-play-in-senescence

  5. Frontiers | Editorial: Dysregulated Protein Homeostasis in the Aging Organism

  6. http://commonfund.nih.gov/epigenomics/figure.aspx

  7. https://www.cell.com/trends/cell-biology/fulltext/S0962-8924(21)00250-6

  8. https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/perspective_53_2_88.pdf

  9. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1084952121000306

  10. https://www.researchgate.net/figure/Current-understanding-of-aging-signaling-pathways-Oxidative-stress-mitochondrial_fig1_51798799

  11. The gut microbiome as a modulator of healthy ageing | Nature Reviews Gastroenterology & Hepatology

  12. https://www.cell.com/cell-reports/pdf/S2211-1247(22)01292-X.pdf

  13. https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fragi.2022.900028/full

 

日本における医療戦略

日本における医療戦略は日本医療研究開発機構(AMED)によって統合されている

  • 日本における医療発展のための戦略は、「健康・医療戦略」、「医療分野研究開発推進計画」などに定められている
  •  AMEDは上記の施策を進めていくため、日本の医療分野の研究開発の司令塔機能を担っている
  • それまで文部科学省厚生労働省経済産業省が独自に実施していた医療分野の研究開発を一元的に実施することで、研究から臨床への迅速・円滑な橋渡し、国際水準の質の高い臨床研究・治験を確実に遂行できるシステムの構築等を行っている

AMEDが推進する研究開発

6つの統合プロジェクトと主要な7疾患領域がある

  • AMEDは、国が定める「第2期医療分野研究開発推進計画」に基づき、モダリティ(創薬手法や治療手段等)を軸とした6つの「統合プロジェクト」を中心に、医療分野の基礎から実用化までの研究開発を一元的に推進している
  • 日本における社会課題として主要な7疾患領域(がん、生活習慣病〈循環器、糖尿病等〉、精神・神経疾患、[老年医学]・ 認知症、難病、成育、感染症〈薬剤耐性を含む〉)に関して、集中的にプロジェクトを進めている

参考資料

  1. 国立研究開発法人日本医療研究開発機構

DNA複製

DNA複製の複製様式(複製フォーク)

DNAは各タンパク質が協働して複製される

  • DNAポリメラーゼが両鎖を伸長する
  • 伸長方向は5’→3’(両鎖で逆方向)
  • DNAヘリカーゼが二重らせんを巻き戻す
  • プライマーゼがプライマーを合成する
  • 1本鎖DNA結合タンパク質が鋳型鎖を離れた状態に保つ
  • 上図のようなDNA複製のための構造を複製フォークと呼ぶ

リーディング鎖とラギング鎖の複製様式の違い

複製フォークにおける2本のDNA鎖の伸長方法は異なっている 

  • 複製フォークでは、DNAがジッパーのように一方向に開く
  • 新たに複製中のDNA鎖のうち、複製フォークが開くにつれて3’末端方向に合成できる鎖をリーディング鎖と呼ぶ
  • もう一方の露出している3’末端がフォークからどんどん遠ざかる方向を向いていて、複製されないギャップが生じる鎖をラギング鎖と呼ぶ
  • ラギング鎖の合成には、比較的小さな不連続の断片によってDNAが複製される必要がある
  • ラギング鎖で合成された不連続のDNA断片は岡崎フラグメント(岡崎令治が発見)と呼ばれる

参考文献

  1. Life The Science of Biology (12th edition)

細胞(cell)

細胞の構造

 

  • 細胞(cell)は生物の構成単位である
  • ヒトは約37兆個の細胞から構成されている
  • 細胞は以下のような様々な細胞小器官から構成されている
    • 核(nucleus):遺伝情報である[DNA(デオキシリボ核酸)]を保存している
    • ミトコンドリア(mitochondorion):生物のエネルギーであるATP(アデノシン三リン酸)を産生する
    • 細胞膜(cell membrane):細胞内外を物理的に分け、物質の出入りを制御する
    • リボソーム(ribosome):mRNA(メッセンジャーRNA)を翻訳してタンパク質を産生する
    • 中心小体(centrioles):
    • ゴルジ体(golgi apparatus):
    • ペルオキシソーム(peroxisome):
    • 細胞骨格(cyteskeleon):
    • 粗面小胞体(rough endoplasmic reticulum):
    • 滑面小胞体(smooth endoplasmic reticulum):

参考文献

  1. Life The Science of Biology (12th edition)

老化の特徴

 

老化によってみられる10個の特徴

老化の原因には以下のような特徴がある

  1. 加齢によって増えていく現象である(増えなければ普遍的な現象であると考えられ、老化を起こすことはできないはず)
  2. その特徴が出るスピードが増せば老化が加速する
  3. そのスピードが緩めば老化が遅れる(老化に付随する減少と、実際に老化を促進させているものを区別するため)

上記のような判断基準に当てはまる10個の特徴を以下に記載する

  1. DNAの損傷
  2. テロメアの短縮
  3. タンパク質の問題
  4. エピジェネティクスの変化
  5. 老化細胞の蓄積
  6. ミトコンドリアの機能不全
  7. シグナル伝達の失敗
  8. マイクロバイオームの変化
  9. 細胞の消耗
  10. 免疫システムの故障

 

参考文献

  1. AGELESS(エイジレス):「老いない」科学の最前線
  2. Guo, J., Huang, X., Dou, L. et al. Aging and aging-related diseases: from molecular mechanisms to interventions and treatments. Sig Transduct Target Ther 7, 391 (2022). https://doi.org/10.1038/s41392-022-01251-0