SUAMA LAB

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WNTシグナル経路

1. WNTシグナル経路の概要

  • WNTシグナル経路:分泌タンパク質であるWNTリガンドが細胞膜上のFizzled、LRP受容体に結合することで活性化される
  • WNTシグナル経路には、複数の細胞内伝達経路が関わっている
    • β-catenin経路:様々な臓器で、幹細胞維持や細胞増殖・分化の制御に関わる
      • 最も解析が進んでいる
      • 多くの腫瘍で、WNT/β-catenin経路に関する遺伝子変異が報告されている
      • WNT/β-catenin経路の活性化は、免疫染色によって検出可能(β-cateninが細胞内に集積しているのが観察できる)
        →腫瘍の病理診断でも用いられている

2. WNT/β-cateninシグナル伝達のメカニズム

  • WNTシグナル経路は、分泌タンパク質であるWNTリガンドが細胞膜上のFizzled、LRP受容体に結合することで活性化される
    • ヒトでは19種類のWNTリガンド遺伝子が存在する
    • 受容体はFZD(Frizzled)遺伝子が10種類、LRP遺伝子が2種類存在する
  • WNTリガンドと受容体の発現は組織・細胞ごとに異なる
    • リガンドと受容体の組み合わせによって下流シグナルの活性化に、どう影響するかはよくわかっていない
  • WNTによって活性化されるシグナル経路は以下のものがある
  1. β-catenin経路:β-cateninを介して、転写因子TCF・LEF1の活性化と標的遺伝子の誘導に至る
    • β-catenin経路は、多くの臓器で幹細胞維持や細胞増殖・分化の制御に関わっている
    • β-catenin経路が異常に活性化すると、腫瘍の発生に寄与する
  1. planar cell polarity経路:細胞骨格や細胞運動を通じて、細胞の平面極性を制御する
  2. Ca2+経路:細胞内のCa2+動員を介して、CAMキナーゼやプロテインキナーゼCを活性化する

Fig. 1: WNT/β-catenin経路, 参考文献1より引用 (a)WNTシグナル経路が活性化していない状態では、細胞質内のβ-cateninは速やかに分解される。(b)WNTが受容体に結合すると、β-cateninの分解が阻害され、細胞質内へ蓄積する。細胞内に蓄積したβ-cateninは核移行し、転写因子(TCF・LEF1)を活性化する。(c)CTNNB1(β-catenin)変異を有する細胞では、β-cateninがリン酸化を受けないため分解されず、恒常的にTCF・LEF1の転写が活性化される。
  • WNT/β-catenin経路は以下のように制御されている
  1. β-cateninはWNTシグナル伝達に重要な役割を果たすタンパク質である
  2. WNT/β-catenin経路が活性化していない状態では、APCを含む複合体によってリン酸化、ユビキチン化を受け、プロテアソームによって分解される。
    • APCを含む複合体はdegradation complexと呼ばれる
  1. WNTが受容体に結合すると、degradation complexによるβ-cateninのリン酸化が阻害される
  2. β-cateninの分解が阻害されると、β-cateninは細胞質内に蓄積される

参考文献

[1]西原広史 [ほか] 編. (2022). がんゲノム医療時代の分子腫瘍学. 病理と臨床, 40(臨時増刊号). 文光堂.